生きる LIVING

とても良かった。
フィルムを思わせるしっとりとした色、ボケ味とグレイン感、4:3なアスペクト。黒澤というよりむしろ小津っぽい味もあり、映画館で銀幕で観る良さたっぷり。

名優ビル・ナイをはじめいい役者ぞろい。とくに元部下の女の子の役者さんは原作の雰囲気すら想わせるキャスティング。 あの歌はあの歌ではありませんが、話の流れもかなり黒澤版に忠実で、しかし独自の味がしっかり染みてて素晴らしい。本心を押し隠しぎみな日本人の特性をテーマとした話は英国人にも載せやすいわけか。

とはいえ、思い返すと、原作のあのシーンも見たかったなぁというないものねだりもやはりあるなあ。

まず1つは、部下の女の子の転職先。やっぱり工場とかものづくりの仕事に就いたからこそ、物語の強いポイントとなる台詞「課長さんも何か作ってみたら?」がでるわけで。

そしてやっぱり、酒場の誕生日パーティーでHappy Birthday To You合唱のなか階段を駆け上がる若い女性、と入れ違いに「わしにも何かできる!」と酒場の階段を急ぎ降りる主人公、動きと構図の対照とともに彼の新たな人生の誕生を祝福する映画史屈指の名場面。

BLUE GIANT

原作は知らないで観たが、これは本当に相当に良かった。

楽曲と演奏が良い。作曲とピアノ演奏が上原ひろみである。最高にすばらしいジャズ楽曲と演奏であるという映画の要求に見事に応えている。

ストーリーが良い。ベッタベタの根性モノである。ジャズど根性映画。だがそれが良い。これでいいんだよこれで。

ジャズど根性映画というと、ジャズのフルメタルジャケットと言われる「セッション」が想起されるが、あれはドラムの男の子の単独の苦闘。これは3人の男の子の友情と戦いだ。ジャズ根性モノにはやっぱりあの手の事故が出てくるのかな、わりと冒頭のあるシーンで、これはそれの伏線なのかな、あぁやっぱり… と思ったが、ベタでいいのだこれは。

演奏の高まりにつれ、高揚というかゾーンに入るというかめくるめく映像効果がケレン味たっぷりにさまざまに展開するが、説得力ある音とともに、これぐらいやっちゃっていい、どんどんやってくれと、リアリティラインにブレがない。

言われているように、一部のドラム演奏シーンは、むかしのテレビゲームの敵キャラの単調な動きを思わせる味気なさであった。が、これは、まだこの時点では彼はヘッタクソだったんだ、という描写と捉えておこう。

家族で観に行ったけど、私も奥さんも感動で落涙しながら鑑賞した。
大満足の素晴らしいアニメーション映画であった。
もう一回ぐらい映画館で観たい。しかし最初から立川シネマツーで観てしまったので、もっといい上映箇所が難しいのが残念。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

前作よりもアクションは激しく、ドラマはしっとりと、思ったよりも良かった。前作を見ていなくても楽しめるが、未見だと一部の人物ドラマの背景が分からなくてつまらないかも。

3D映画を字幕で見ていると、いま注目している「空間」の場所・方角・距離と関係なく、「画面」の手前下に字幕が出ることが若干うっとうしかったのだが、本作ではそこも気が配られていて、「空間」のなかでの適切な場所と遠さのあたりに字幕が出る。字幕というか文字オブジェクトというか。

DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン

好きで好きでたまらなくて作ってんだなー というのがひしひしと伝わる。ある意味ヒドい部分はいっぱいあるんだけど、音楽でいうとローファイの味というか。リアリティライン、「これはこれ」の「これ」具合がずっとブレないのが、気づくと見入ってしまう魅力か。

戦闘機を抱えてる顔が思いっきり素顔なのがすごいが、そもそも舞台演劇や歌舞伎や落語といったリアルなクリーチャーやCGに頼らない表現だってあるよね、演じる・撮るってもっと自由だよなそりゃ、とか思った。ドグマ95の遠い遠い親戚なのかもしれない。

RRR

血と汗と友情とアクションと踊りがみっしり詰まった3時間。 つまりハードなファンタジー。

rrr-movie.jp

バーフバリは相当に満喫したが、ガンギマリのファンタジーというものは、おとぎ話がおとぎ話として納まる時代や設定で作ったほうが、作る方も観る方も納まりがいいんだろうなあ、とは思った。


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ロストブレット2

前作「ロストブレット 窮地のカーチェイス」は、古めのフランス車オタクおじさん向けのルノー21ターボポルノアクション映画だったが、こんなターゲットの狭い単発作品もない、こんな企画が通るNetflixの企業カルチャーすげえ、と思っていたら、なんと続編がでていた。

前作はまだ男の友情、仁義、カーアクション、21のブローオフバルブのプッシャー音などから成っている映画だったが、

blog.mrmt.net

2作目はもう、殴る! 蹴る! 走る! ぶつかる! これを100分間繰り返す! というもので、ストーリーはあるかないか怪しい。これはもう、怪獣が出てきたらやっつけます、寿司が流れてきたら食べます、に近いコンテンツだ。

カーアクションとしては、ルノーは各種出てくるのだが、特に魅力的なシーンはなかった。さすがに小道具を付けすぎて、もうリアリティラインの向こうに行ってしまった。リュック・ベッソンのTAXiシリーズのつまらなさに近い。これ以上クルマを電気とケーブルだらけにしたら、フューチャーにバック・トゥしてしまう。


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この2にとどまらず、パート3まで出る可能性があるらしい。
21はさすがにもうばらばらスクラップになってしまったので、次に主人公が駆るのは何だろう。ほぼラストシーンで「これなら家族旅行向けだ」とシニカルなことを言ってディーゼルのエスパス4に乗って去っていったので、エスパスの究極進化系 アヴァンタイムで あの男が帰ってきた、という伏線回収はどうだろう。あの長くでかいドアも駆使してロシアンマフィアをばったばた倒すぐらいやってほしい。あるいは、ウイリアムズF1のV10エンジンをミッドシップに積んだエスパスF1で宇宙人と戦うのもいいだろう。

https://www.netflix.com/title/81509213

あのこは貴族

順当に良かった。
門脇麦は「愛の渦」で巧い役者さんだなと感心した。本作でも良い。 水原希子はちょっと苦手感を持ってたけど良かった。

僕は貴族でもなんでもないけれど、自分にはトウキョウの私立学校でずっと育って大人になった自分の人生しかないので、 私立とそれ以外、トウキョウとそれ以外とのヒトやモノの出入りには無意識にすこし身構えたり気にしすぎるところがたぶんある。その境界にあるかすかなギャップを劇として増幅するドラマ、ふたつの世界のオンナ戦争みたいな話になっちゃったら、自分のなかの何かまでえぐられるようでしんどいなー とすこし警戒していたが、異文化の相互理解という気持ち良いながれで、ひとが自信を取り戻すことの爽快感もくわわり、心地よく観終えた。 よい背景とストーリーと役者さんたちによる、素直な味わいの一本だった。

と同時に、もしこれが西川美和監督だったら、さらに人の何かが発酵する隠し味も漂って、さらにひと味濃くなるんだろうなという、ないものねだりの贅沢なことも思った。

2001年宇宙の旅

川崎のチネチッタで
「チネチッタ100周年記念【LIVE ZOUND】特別上映」として
2001年宇宙の旅を上映しているので、もちろん行ってみた。

2001年宇宙の旅は、 若いころ早稲田松竹で観ていらい、 かつてレーザーディスクで持っていたし、なぜか先日Amazon Primeで100円で売っていたとき買ったし、たぶん20回は観ているのだけど、やはりいい音大画面銀幕で観るのは格別だ。
intermissionでトイレにいって通路で少し伸びをしたりするのもいい映画館体験だ。


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もう1本は七人の侍だそうで、確かに100周年で何か映画ベスト2となったら、こうなるだろう。こちらも、若いころ早稲田松竹で観ていらい、 かつてレーザーディスクで持っていたし、デジタルでも購入して持っているし、たぶん30回は観ているのだけど、もちろん今回のチネチッタも行くことだろう。

七人の侍の場合は、画の4K修復というよりも、台詞など音トラックの不明瞭さの修復にウェイトを入れてほしいし、そのほうが今回のハイエンド音響装置の価値も引き立つところなんだけどね。 恐らく全台詞は頭に入っているけど、それでも利吉が何いってるかイマイチ聞き取りづらい。

『2001年宇宙の旅』/『七人の侍 4K デジタルリマスター版』チネチッタ100周年記念【LIVE ZOUND】特別上映決定!
チネチッタ100周年を記念して、映画史に燦然と輝く名作『2001年宇宙の旅』と『七人の侍』(4K デジタルリマスター版)の【LIVE ZOUND(ライヴ ザウンド)】特別上映が決定いたしました。
ライヴプロデュース集団のクラブチッタと映画館のチネチッタが手掛ける独自のハイエンド音響装置=LIVE ZOUNDによって、全世界を驚愕させた不朽のSF映画と、世界の映画人に大きな影響を与えた日本映画の金字塔の2本がチネチッタの最大客席数の大スクリーンに甦ります。この新旧の技術(テクノロジー)の融合は、きっと皆様の人生の記憶に強烈に残ることでしょう。

ぜひ、ご来場ください!
上映作品・上映期間:
 11/4(金)~11/10(木) 『2001年宇宙の旅』(1968)
 11/25(金)~12/2(金) 『七人の侍 4K デジタルリマスター版』(1954)
※タイムテーブルは決定次第スケジュールページに掲載いたします。
上映劇場:
 CINE 8 【LIVE ZOUND×RGBレーザー】上映

ブレット・トレイン

さっぱりした一本道バカ映画。

たぶん全員わかってて計算されたインチキ日本が心地よい。

ブラッド・ピットが、見た目も設定も濃い登場人物たちをまとめる、他者の持ち味を殺さずしかし求心力しっかりの狂言回しになっていて、やっぱり才能ある役者さんだなと。