ダーク・ブルー

この映画は良い。良かった。

ナチドイツに接収されたチェコスロバキアの、戦闘機パイロット二人。まだ若い未熟な青年とその兄貴分・上官はイギリスにのがれ亡命チェコスロバキア部隊としてRAF(英国王室空軍)に参加するのだが、しかし戦後祖国に戻った彼らはチェコの共産政権にペルソナ・ノン・グラータとして扱われ、強制収容所暮らしを余儀なくされる。その収容所における、彼らのバトル・オブ・ブリテン(ナチドイツの英国に対する航空戦争)の回想シーンからはじまる映画。

まずなんといっても、空と、ヒコーキの画がとにかくすばらしい。いまこれを書いていてもまた鳥肌が若干もどってくる。深く透明ですこしせつない紺碧の青に舞うスピットファイアの肢体。僕はスピットファイアは、皆があまりに美しい美しい、名機だ名機だというのでいままで食わずぎらいのところがあったのだけれど、やはりほんとうに美しい機体だ(ランディングギアが短足で格好わるく、たたずまいをちょっと壊しているところがまたポイントで良いと思う)。ロールスロイス・マーリンの快音も素敵だ。ストーリーと画を申し分なく描き出すための、イーゼルにおける絵筆の役割を上手に十二分に果たしている。青空と青い海を上下に、白亜のドーバーの絶壁を背景に、主人公たちのスピットが飛んでゆくシーンは、いままで映画に描かれた戦闘機のシーンとしてもっとも美しいもののひとつではないだろうか。

基調にあるのは、主人公たちふたりの、子弟かつ男どうしの友情だ。そこには切ない恋愛も横にとおりすぎたりするのだけれど。全体としてあかるく、せつない。ほとんどが回想シーンであるという設定が、画の仕上げとしても、見るものの気分としても、ひとはけの夢見るようなうつくしさをくわえている。

特撮、CG面でも、ハリウッド式のデジタルてんこもりではなく、要所要所にいろんなアイディアを使って製作・仕上げされている。DVDについているメイキングも面白い。ナレーターはジブリの片塰(かたあま)さん(お元気ですか?)。映画自体の良さも手伝って、見ていると前職を思い出して胸がきゅーんとなる。