面白かった。最初は文章や人物像が類型的かな、技術的な詳細もぬるめだな… と思っていたが、徐々にストーリーに引き込まれていった。自動運転とトロッコ問題と責任の所在という、自分もこのへん将来どーすんだろと思っていた面倒くさいところに切り込み、オプティミスティックな未来を見せつつ大団円を迎える。自分もまあまあオープンソース志向の人間ではあるが、この人の価値観はブレないな。
末尾の解説で、近年のSFの方向性のひとつホープパンクという言葉を知り、SFでもこういう潮流が生まれていることを面白く知りました。小松左京の「SFは希望である」という言葉との合致、さらに言えば1つ前に読んだ伊藤計劃の虐殺器官が小松左京賞の最終選考に残らなかったことも併せて味わいました。僕はどっちも好きだけど。
あと、作者の安野氏はあえて将来の自動運転にbetして運転免許を取ってないぐらいの人なので、きっとそうだろうなと想定していたが、首都高環状線という世界でもっとも素敵なところが舞台であるにもかかわらず、「クルマとC1」の要素が皆無だったのは、逆にすごいなと思いました。孤独のグルメに食事シーンがないとか、ボヘミアン・ラプソディに演奏シーンがないとか、そんな感じです。