というわけで、7月からふたたびシトロエンC5に戻りました。前の前に乗っていた初代C5からは2台め、世代としては2代めです。C5の2代めを区別して呼ぶとき、その筋では、形式を含めてC5X7と言います。86のトレノとか92のレビンみたいなものです。
2代めC5が発表されたのは2008年なので、もはや10年近くまえです。
デカいし、なんとなくアウディっぽいし、ケツはE90あたりのBMW 3シリーズそっくりだし、当初はドイツ車に媚を売りやがって… と古来のファンからは抵抗もありましたが、メーカーは逆にいけしゃあしゃあと「まごうことなきドイツ車、シトロエンより新発売!」という、ネタで100%打ち返すテレビコマーシャルをやっていました。
The New Citroën C5 - Unmistakeably German
イマイチなところ
ハザードボタンが運転席から遠い。欧州では、ハザードボタンは助手席から容易に操作できる位置に設置すべし、と法で定まっているらしいですが、だからといって助手席の正面に持っていくことはないでしょう。
ステアリングが、低速では、直進中央付近が、微妙に不自然に重い。
フューエルリッド。要するにガソリン給油口のフタ。直接キーを入れて解錠するなんて今や古くて懐かしいですが、蓋自体の作り、そしてフタを引っ掛けるところもなんかチャチです。
日本仕様に付いているレガシーなカーナビ。「カーナビ付きのクルマ」を所有するのが初めてなのですが、使いづらい! 動作が遅い! 手を伸ばして操作すると手が痛くなる! データの更新が2万円! Google Mapアプリに慣れていると、まるで銀行ATMの振込操作というか、呆然とする使い勝手。取っ払って、オリジナルのカーナビ無しに戻したい…
図体がでかい割に、車内の収納がプア。室内の広さも、初代C5の、体育館のなかで大きく伸びをするような あっけらかんとした広さではないです。ドアと椅子の位置関係が悪いのか、乗り降りでつっかえる感じもします。
とくに、一個しかない前席カップホルダーの位置はあまりにもひどい。ドライバーの左手の肘の下にある、蓋付き収納ボックスの奥底に、硬くたたまれて入っています。使い始めるのも、出し入れも、硬くて手を伸ばしづらく、ドライバーの視界からも離れており、これを使うぐらいなら運転中にポケモンGOで遊ぶほうが安全です。飲み物を入れると今度はフタが閉まらなくなるのもラテン系な詰めの甘さです。
日本仕様だけの問題ですが、カーステ正面に開いているミニプラグのaux1は機能しません。標準装備のHDDミュージックサーバーからのaux2と排他なため。
突っ込みどころ: ダウンサイジングするとエンジンブレーキが効かなくなる
技術の進歩と環境意識の向上にともない、いまどきの自動車は小さなエンジンが主流です。C5X7はBMW 5シリーズやメルセデスEクラスとほぼ同じ長さ4.79m 幅1.86mというデカさですが、後期型セダクションのエンジンは1.6Lという小ささです。ただ、なるべく大きな車体をなるべく小さなエンジンでケチって走らせるのは、同国の税制の影響も強いですが、もともとのフランス車の思想でもあります。
ひゅんひゅん機敏に吹き上がるタイプではなく、ゴワーと実務的に回るエンジンで、レッドゾーンは5500回転と低め。早くも2000rpmあたりからターボで加給しているそうですが、ターボの音もしないし、徹底的に低回転からのトルクに振った実用エンジンです。BMWとPSA(プジョー・シトロエン)の共同開発で、BMWミニが源流のユニット。ぶっちゃけプジョーとシトロエンのガソリンエンジンは上から下まで今やほぼ全部コレ系です。官能性のカの字もありませんが、シトロエンやフランス車にそこは求めていないので問題ない。
ただ、大きい車に小さいエンジンを積むと、エンジンブレーキが利かないのは発見でした。
昔でいえば3〜4リッターあたりが妥当な巨体に、1.6リッターエンジンを搭載しているわけです。
エンジンの出力については、たとえ小さなエンジンからでも、ターボチャージャーなどの技術で排気量を超えたトルクや馬力を生み出すことができます。しかし、いわば「負のエンジン出力」であるエンジンブレーキは、排気量が小さいぶん、素直に制動力も限られます。エンジンブレーキにだって排気ブレーキやリターダといった増力技術はありますが、さすがにこれらはディーゼル大型トラック向けのもの。あえて乗用車にそういったものを付けるなら、電力回生装置、つまりハイブリッドカーを目指すのが正解です。
さらに、早めのシフトアップを志向するアイシンAWの6ATが常時高めのギアになっているので、ぐっとエンジンブレーキを得たいような場合は、ATのシフトゲートを左に倒し、即座に2〜3回はダウンシフトしてやらないと、エンブレが得られるギアになりません。シフトダウンしてやっても、小さなピストン4つを巨体でパワハラするような申し訳ない感じが半端ないので、あまり使う気になれません。
突っ込みどころ: ほか
速度計に、フランス車のお約束の速度レンジマークがありません。
30km/h 住宅地
50km/h 市街地
90km/h 一般道
130km/h 高速道路
で、刻みがついているやつです。グローバリゼーション。
いいところ
言うまでもなく、ふかふか、どんぶらこな乗り心地。
これぞシトロエンのハイドロ。空気と水のサスペンション。恍惚。
こりゃBX, Xantia, 初代C5よりも、どんぶらこです。まったりと走る。曲がる。止まる。ここに意識と快感の頂点があるので「スピード=快感」の価値観から解脱しています。
とはいえ、じゃあ首都高C1を一周10分ぐらいのペースで回ってみたと仮に想像すると、これがまた金輪際ロールしねー! ふんわりとした乗り味のまま、前後左右のスフィア(油圧緩衝装置)をアンチロール・アンチスクワット電子制御してくれます。
水平方向には、路面にピタリと張り付き、オンザレール。
垂直方向へは、ぬるん、ぬめぬめ。
高低差もあるコーナーへ飛び込んで、安定してヌルンと滑り抜けていく感じがまさにハイドロの愉悦。これは、たまらない、たまらない…
ちなみに、初代C5同様、速度110km/hで車高が自動的に15ミリ下がって安定性をあげてくれるのですが、日本国内では表立って言いづらいですね、これ。
アイシンAWの6ATは、驚くほどぐいぐいシフトアップします。50km/hあたりで6速に入ってる。すごいすごい。これまで、街中ではついに4速に入らずドカンドカンとシフトショックだらけだった、ルノー・シトロエン・プジョー共同開発の、つまりフランス共和国が全力で作ってもダメだったオートマチック変速機AL4や、自動変速自体の信頼性がおっかないZFなど、動作と信頼性と速度域が特に日本ではこれまでサッパリだったフランス車のオートマが、ついに日本・東京とのベストマッチも手に入れました。おまけに燃費もいい! 島根県から東京まで900kmを満タン一発で走ってこれました。
オートマは日本製、エンジンはドイツ、そしてフランスのハイドロと、いいとこ取りです。でも、実は初代C5のころから、ハイドロの油圧系をフランス人に代わって日本のカヤバが手がけてたので信頼性が盤石になってたのは秘密です。
車体のでかさも、慣れると特に気になりません。僕はいままでもこれからも、東京と、東京の狭い道が大好きです。
近接センサーは割とピーピー鳴ってくれて、ちょっとうるさいけどとりあえず便利。
ディレクショナル・ヘッドライト。ハンドル切るとヘッドライトがきょろきょろ左右を向いてくれて幸せです。これはみなさんに正座して聞いてほしいのですが、ディレクショナル・ヘッドライトは、シトロエンDSの1967年モデルが世界で最初のオリジナルです。世界中のメーカーみんな、シトロエンの特許が切れるのを待ってから続々と自社採用してドヤ顔しやがって…
リアウインドウ。C6につづいて、逆反りガラスです。
こうする合理的な理由はわかりませんし、ワイパーを付けられないので雨の日の後方視界が悪いですが、シトロエンCXの逆反りが復活したといいますか、理屈じゃなくて感性。愛好者に対して、お前ら、わかってるな? 買え。というシトロエン社からの明確なサインといえます。
コンソールは、多数のボタン、中央が固定で輪っかだけが回るセンターフィックスなステアリング、配色がややどぎついデジタルディスプレイなど、ふたたびシトロエンの独自UI/UX, ロストフューチャーが戻ってきました。
いまどきのクルマは、どいつもこいつもドアミラーにウインカーがついてますが、こいつは、ミラーではなく、支柱にランプをつけてます。他所と同じはあくまでもイヤだったんでしょうね。
車高を上げるときのRaising in Progress..という表示も、厨二SFっぽいです。エヴァンゲリオン的です。そういえば原作者はXantiaが大好きだったんだっけ。
むしろ、それよりも、夜の闇に光るC5X7のメーターの風景は、さらに遡って、銀河鉄道999やキャプテンハーロックや宇宙戦艦ヤマトのそれ、つまり、松本零士っぽいのでした。