これから目指す黒部ダム近辺は、自然保護のため、あと険しい自然のため、一般の自動車では近づくことができず、山を穿って設けられたトロリーバスやケーブルカーやロープウェイといった交通手段でしか行くことができない。
この扇沢駅は、黒部ダムにアプローチするその最初のフェーズであり、トロリーバスの駅である。
トロリーバスとは、要は架線から電気をとって走るバスなんだけど、日本では法律上鉄道にジャンル分けされているらしい。なので「駅」になっている。
連休ということもあって結構待ったあげくホームにあがると、バスが連なって待機している。別に連結されているわけではないが、結構電車っぽい並びかただ。
この路線は、ふもと側のこの扇沢駅と、山の反対側の黒部ダムの駅を結んでいるだけで、その間はずーっと狭いトンネルだ。トンネルの中は基本的にすれ違えないので一方通行。つまり言うなれば単線鉄道だ。
そんな単線鉄道で、かつ進行方向一定の車両(トロリーバス)を運用しているので、それぞれの駅は、P型の折り返しループになっている。以下はふもとに帰ってきたときの写真だが、下車ホームからずっとループで乗車ホームにルートがまわっている。
設けられている時計も、いわゆる駅にある標準的なタイプのアレですよ。
そんなわけで乗り込んでしばし。VVVFインバータの音とともに走り出す。
電気モーターなので案外加速は悪くない。というか、走り出すまではバス的な喜びがあって、走り出したとたん電車的な喜びになる。「やったー焼き肉だー」と喜んでいると、口に含んだとたん、おぉ?! これはカツ丼の味だ! というような、瞬間の倒錯。
で、狭いトンネルに突入するところは、これはもう、地下趣味、地下鉄趣味、このあたりを限界まで濃度いっぱいにして一気に静脈に点滴するような、めまいのするような快感だ。トンネル入り口に自動開閉する鉄のゲートが設けられているのもポイント高い。
首都高C1の地下区間とか、八重洲線と東京駅駐車場との連絡トンネルでズーンと来てしまうひとは、ここのトロリーバスを味わったらオーヴァードーズしてしまうかもしれない。
上の写真は、トンネルの中央に設けられた、すれ違いのための複線区間。単線鉄道でいうところの、すれ違いできる信号所みたいな。
(正確には、こっちは黒部ダムの向こう側の、経営も運営も違うトロリーバスなんだけど、技術的には同じようだ)
で、運転手さんが、ちゃんと閉塞票(タブレット)を受け渡しするんですよ。もう、たまんねえでしょ。
さらにたまらないのが、すれ違い区間に設けられた、架線のデッドセクション。
これはダムの向こうのほうの駅だが、バスの上の架線が2本あるのがお分かりいただけると思う。
なぜ2本? 普通の電車は架線がプラスで線路がマイナス、これで回路が成立している。
でもトロリーバスは道路はただの地面、車輪もゴムタイヤ。だから、架線側でプラスとマイナス両方を担ってやらないといけない。ここで (メルクリンの中央集電交流式とか以外の) 鉄道模型やってた人ならピンとくると思うが、プラマイ2本平行の裸電線でそのままポイントをつくるとどうなるか。交差部分でプラマイが接触してショートしてしまう。だから、そこをすべって通過していくトロリーもふくめ、巧く絶縁する仕組みが必要だ。
ここのあたりもっと詳しく見たかったが、さすがにうまく見ることはできなかった。ちなみに「デッドセクション」ではなく、カタカナ4文字の名前になっていたのだが、思い出せない…
運転台。アクセルとブレーキ、ステアリングなどは普通のバスだが、計器類はかなり国鉄201系な感じです。