Tangerine Dream, Live at METAMORPHOSE 09

Tangerine Dreamを見るために伊豆のMETAMORPHOSE 09いってきました。

生Tangerineをみるのは25年ぶりです。こちらも40過ぎになりました。かれこれ二十年以上音楽で付き合ってる仲間数人と前の晩から会場近くの別荘に泊まりこんで、万全の布陣で臨みます。

ただぶっちゃけ、期待は50%ぐらいで、あとの半分は、ああこれから僕は残念な思いをするに違いない。という、あきらめて予防接種や歯医者の手当てを待つ患者のような心境でした。

で、案の定でした。ツライ。

Tangerineは1967年結成, すでにできてから42年たってます。僕と同い年。25年前の厚生年金会館の衝撃は二度と忘れません。生まれてきて(人間関係以外での)衝撃感動のベスト2に入ります。タンジェリンとクラフトワークのためなら今すぐ死んでも悔いはない。そう思って大人になりました。

彼らはずっと前衛・プログレッシブ・ロックを走ってきましたが、80年代後半には、前線から退いてしまいました。

そのあとは、なんつかニュー・エイジ・ミュージックですよ。

ただ、一年ほどまえに友人宅でみたライブのDVDが、ちょっとよかった。そこでは、あえて、80年代中盤以前の、ガッツのある曲ばっかりがプレイされており、さすがに後ろに控える巨大なモジュラー・シンセMoog IIIは退役しているものの、メンバーの後ろに大きなモニタがあって、そこにMoog IIIのエミュレータが立ち上がって映し出されているではないですか!なんだか間抜けな気もしますが、心意気は買ったぜ!

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そんなわけで臨んだ当日のきょうですが。

やっぱりメンバー多すぎるよ!
Edgar Froese, Chris Franke, Peter Baumannの黄金の3人体制、ないしはバウマンに代えてJohannes Schmoellingが入った最強の80年代後半にくらべ、なんだか駅前で民主党のチラシでも配ってそうな元気なギタリストの兄ちゃん、生保のセールスレディのように笑顔を振りまくドラムのねえちゃん、D-70弾いてオーボエも吹く魔法使いみたいなおばちゃん。

総勢5名ぐらいいて、すでに人口がEXILEの3割近くまで達している。立法、行政、司法の三権分立と言われるように、タンジェリンは永遠に3名でやるべきなのです。Emerson, Lake & Palmerが20人ぐらいでやってたら、この世の終わりでしょ?

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なんか、ニュー・エイジというかフュージョンなんだよね。コード決めとくから32小節ぶんソロやってね的な、五線譜にコードだけ書いて後はハイな感じが、例えようもなく、イヤ。時給で働く職業ミュージシャンならいいけど、タンジェリンがそういうことやらないで!

結局、演奏されていたのは、カー・グラフィックTVの走行場面とか、通販番組のBGM (「万能皮むき器をご紹介します!」とか) にピッタリな音楽群でした。

ステージ前のオーディエンス観てると、他のライブ会場とかバンドとは明らかに客層が違ってて、40代とかそれ以上のじじいばっか。Disk UNION以外で現金を使ったことがないとか、生まれてこのかた新宿レコードの店内から外に出たことがないとか、そういうツワモノ感あふれるオーラをそこかしこに感じます。はい、完全に自分のことを棚にあげてます。

で、演奏がつづくに連れて、彼ら同志たちは、力なく頭を振りつつ、ひとり、またひとりと会場を後にしていくのが見受けられました。

冷静にみると、ステージの若い連中はニコニコやっているし、演奏者・パフォーマー・芸人としては見上げたものなんです。
実際、打ち込みだけでなく、見た目も立つギターの兄ちゃんとスタンディングドラムの姉ちゃんを中央に据えて、音の迫力もライブ感もエンタテインメントとしての見どころも押さえている工夫は立派なものなんです。

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でも、なぜ耐えられないのか。観ながら考えて悩みました。

要はこちらの心が狭いだけなんです。

でも音楽なんてしょせん趣味が100%のものなんですから、好き嫌いとか露骨に言ってていいんだと思いました。人間の闘争本能をプロレス観て発散できるなら健全なものです。同じように、野球チームの好き嫌いで呑んで喧嘩したり、ロック死ねとかパンクくたばれで殴り合いが済んでれば、世の中ほんとうに平和です。だから気にしないでいいのだ。俺もコドモに戻ります。

1. やっぱり笑顔でニコニコ、台所用品の実演販売みたいに演奏されては、たまったものではないというのが一つ。観ていて痛い。Tangerineはやはり、音と前衛と電気回路の明日にむけて、苦み走った顔でやらなければいけないのです。でも80年代後期から、ヨハネスは結構にこにこして演ってたけどね。

2. 使ってるシンセ、あれはいったい何であるか。Moog IIIとPPG Wave 2.2が出てこないと会場に発煙筒を投げるとは言わない。ELKAのストリングスシンセサイザーとかメロトロンとかARP Odysseyとか平たく伸ばしてラックマウントされたTR-808とOberheim DMXが出てこないと裸になって暴れるとか、そんなことも言わない。
でも、ステージ左右のセットでまず目に入るのは、お揃いでNord Lead 3たちとKORG RADIASですよ? モデリングじゃない機材はいったいどこに目を凝らしたらあるのだ?漢のVCF回路はいったいどこにいった?

3. チンケなディスプレイ
フローゼ御大の後ろには、一枚ずつ大型ディスプレイ(仲間うちでは途中から「ビエラ」と言ってました)があり、そこにシンセのエミュレータが映し出されているのですが。
以前友人宅で観た同様のセットアップのときは、いかにもMoog IIIに見えるエミュレータが、ほぼ実寸大な感じで映し出され、黙々と進行するPhaedraの後ろで、きちんとアナログ・シーケンサ(のエミュレータ)が黙々とLEDを刻んでいました。しびれました。
しかるにこの伊豆サイクリングセンターではどうであったか。
映写されてたのは、下半分がProphet 5のエミュレータ (Pro-12), 上半分が Mini Moogのエミュレータ。なにそれ。
で、ちっとでも演奏に使えば、画面が多少またたきもするものですが、はじめからおわりまで、まったくその不細工な画面のままでした。がっかりにも程があります。これならパフュームのPVでも流してくれたほうが、まだ矩形波が増えて有意義というものです。

4. 編曲・進行
上にも書きましたが、まるでディズニー・シーの演し物でも観ているような、オリエンタル・ランドの職員が時給もらって演奏しているようなシロモノでした。
PhaedraとかLogosとかTangramとか名曲群もやってたようなんですが、僕には、え、それがアレなの? と、ほとんどさっぱりわかりませんでした。わかりたくもなかったかも。
いや、元気でいいんですけどね。でも、隣にいた梅沢くんの「いいんだけどさ、Stratosfearで、(生ドラムのお姉さんに) 四つ打ちされると、ほんとに心が折れる」という感想に、そこにいた仲間5名は、つくづくうなづいたのでした。
あ、でも、アンコールの2曲目のCinnamon Road (アルバムHyperboreaの)だけはよかった。というか、来る前から、昔の体制と現体制とで唯一つながってサマになるのってあの曲ぐらいだよなあと思っておりました。当時僕がまともに聴けたTangerineの最後の一枚でもありました。これがHyperboreaのオリジナルアルバムであります。

Hyperborea

Hyperborea

 

で、これが近年大量にリリースされている焼き直し版 Hyperborea 2008 であります。2008? たいへんですね。こういう年号付きバージョンアップはマイクロソフト・ワードぐらいで充分なのであります。おまけにこのセンスも品もないジャケットにフォント! 皮肉でもなんでもなく、これじゃ中国製のブートか、コンドームの箱です。こんなんでもパカパカ出したいんなら、もうデアゴスティーニにでも移籍してくれよと思っているのであります。

Hyperborea 2008

Hyperborea 2008

 

まあ、いろいろあったけど、会場のモニタの音質が良くなかったのもあるかも。フェスで音質いってもしょうがないとは思うんですが。

ひとつ言えるのは、フローゼ爺さん、さすがに65歳、なんか老衰しててやべーと思いました。好きなミュージシャンの身体状況がこんなに気になるのは、Pet Shop BoysのNeal Tennantの髪の毛の残り本数以来です。

さいごに、フローゼ爺さんが、みんなありがとう、サヨウナラ・アリガトウと挨拶してくれたことで、なんかこれまでの不満は全部帳消しにしていいような気もしました。僕もオトナに戻ります。