Heaven 17 の2nd.
Heaven 17は、The Human Leagueが初期に分裂した半分。分裂後に名称を継承したほうの The Human Leagueは、アルバムDareを出して、名曲「愛の残り火」でエレ・ポップの金字塔をなしとげたわけだが、Heaven 17のほうは、もっと渋くファンクで通で男っぽい芸風に進んだ。正確には、分裂した2名が British Eletric Foundation (B.E.F.)という作曲編曲プロデューサーユニットを構成し、この B.E.F. にシンガーの Glenn Gregory が加わった構成が「バンド」である Heaven 17 だ。バンド名はたぶん「時計仕掛けのオレンジ」からのネタ。
The Luxury Gapが出たのは1983年で、僕が高校一年のころ。
日本でふつうに暮らしている少年にとって、生活でふだん接する音楽というものはいわゆるクズのような大衆大量生産歌謡曲のたぐいで、なので自分の耳に「音楽」というものを入れることにそもそも興味がなかったのだが、中学でYMOに出会って目がひらいて、そんなわけでドイツ・プログレとかブリティッシュ系エレ・ポップとか、自分から、まっとうに耳に入るオンガクを探し始めたころ。
エアチェックでこのアルバム1曲めの Crushed By The Wheels of Industry に出会って、なんてかっこいいんだと衝撃をうけた。
このアルバムの聞きどころは、まずはやはりCrushed By The Wheels of Industryで、若干インダストリアル風味なシンセ・ノイズや歌詞は、EBMの始祖っぽい風味もちょっとある。軽快なギター・カッティングや、徐々にスケールアップする展開はなかなかすばらしい。
Temptationは、ファンクで、曲も編曲もなんともヘンな感じが徐々にやみつきになる不思議なチューン。
「ファンク」って、「抜け」や「とっぽさ」を絶妙に調味料として振りかけることだと個人的に思っているのだが、この曲では、ちょっとそのさじ加減をまちがえて、味の素だけなめているようなへんな感覚が時おり訪れる、
そこがなんとも奇妙な魅力を生んでいる一曲だ。計算してやっているのならかなりすごいとおもうが、たぶんそうじゃないと思う(笑)
そして Heaven 17 最高の名曲としてしばしば refer される Let Me Go.
(僕は Teddy Bear, Duke & Psycho 所収の Can You Hear Me? が隠れベスト名曲だと思うが)
たしかにいい曲なんだけど。
Heaven 17というかB.E.Fって、というかThe Human Leagueの創立メンバーもそうだけど、全員楽器もできないし、楽譜も読めない。
そこが当時として新しかったとこでもあるし、いつまで生楽器なんぞに音楽をひきずられてるんだ太古の亡霊ども、生楽器だの生演奏から音楽を解放するんだ!!!!というアナーキーな気合いがあったり、このへんが個人的にもいちばんぐっとくるあたりだ。
アイディアと作曲と編曲だけで、ポップの新しい地平に踏み出すんだという意思が感じられるのが Heaven 17 と B.E.F. にいちばんシンパシーを感じるところだし、でもそんな「弾けない、わからない」自分たちの劣等感のうらがえしが編曲において凝りすぎてしまう欠点にしばしば出てしまうのもよく感じて、ここもなんとも愛おしいところだ。
(Erasure の Vincent Clarke はその点じつにいけしゃあしゃあとしていて、違いがおもしろい)
そんなわけで、Let Me Goは良い曲なんだけど、編曲を含めた作品としては、自分は特にそうピンとはこないのだ。シンセの音色とか Linn Drum まるだしのところが好みでないのもある。
Let Me Go の本来の曲の良さを味わうなら、Nouvelle Vague の Bande a Part に収められているカバーのほうがおすすめ。