春画展

例の、大英博物館「春画展」からの国内凱旋展示。行ってきた。

f:id:mrmt:20151122185736j:plain

これは行く相手を選ぶ展示会だ。

ひとりで行ってもいいけど、性愛がテーマの絵画展なので、ストレート(異性愛者)の僕としては女性と行ったほうが面白いし、かといって、こういうのが苦手な人や、逆にベトついた感じになってもしんどい。文化的背景も踏まえたうえで鑑賞したいし、といって「エロ=悪、アート=善」みたいな人もチガウ感が半端ない。

どうしよっかなー と思ってたところ、これ行く! 行きたい! 前売券も購入済! 2回は観る! と言ってた稲穂ちゃんと行ってきた。まさにずばりの美女! わーい。

f:id:mrmt:20151122185758j:plain

 

会場は文京区の永青文庫で、椿山荘の隣あたりだ。細川家に伝わる品を今に伝える美術館であり、館主はもちろん、現在陶芸家でアルファ156乗りの細川護熙さんだ。

入館して最初に現れる本展のあいさつは細川護熙氏のしたためたものだし、展示品には細川家に伝わる歌麿などもある。本展の開催はいくつかの美術館に打診されたもののいずれも難しかったらしいが、そんな向きに対して「はぁ、何をおっしゃっているやら…」という大人の態度がびしりと決まる、ベストの開催場所だ。

 

f:id:mrmt:20151122185725j:plain

 

おおよそ時代を追っての展示がされている。

江戸時代初期のころは、性交や性器そのものを絵画で扱うだけでイノベーションであり、男女とも性器が滑稽なぐらいデフォルメされていたり、交接部のみが不自然にクローズアップされたり衣服がまくられたりしており、エロティシズムというよりは、驚きのメカ発見! というような構図だ。

例えばジェット機や潜水艦を図鑑や博物館で解説する際、そのエンジン部や魚雷発射管だけを拡大図にしたり、模型の内部が見えるよう切り開く工夫がされていたりするだろう。この時代の春画を見ていて僕が感じた印象はこれと似ている。つまり、セックスという事象を見える化することが文明に出現してきた段階。文化にはまだ、なってない。

 

f:id:mrmt:20151122190048j:plain

 

そして徐々に、歌川国政、円山応挙、菱川師宣、はたまた狩野流、といろんな版画や画法が現れて、じわじわと面白くなってくる。喜多川歌麿もキター。

このあたりから、徐々に、交接する男女(あるいは男男、あるいは女女、あるいは女男男女獣女小人…)の表情や手足の風情、あるいは足指の細かい折れ曲がりなどから紡がれる性愛の表現になってくる。つまり文明から文化になってきている。この変化を目の当たりに追体験できるのは大変おもしろい。


あと、絵の状態がとても良いです。お天道様の下で堂々と展示するコンテンツではないゆえ、密かに所蔵されてきており、褪せや傷も少ない。さらに、将軍家など身分の高い一族に伝わり互いに贈答される繁栄と幸運のお守りという役目も春画にはあったらしく、したがって秘伝秘蔵の保存状態良好なものも多い。

 

そして、葛飾北斎の「蛸と海女」が出てきます。本物は思ったよりも小さいものでした。しかし。構図、内容、クォリティ。これがいかに凄いイノベーションだったか、ちょっと本気で鳥肌が立ちます。

蛸と海女 - Wikipedia

 

あと特に感銘を受けたのが、江戸末期の豆版です。10cm四方ぐらいの小さなフォーマットの一連の版画。これがもう、美しい配色、鮮烈な構図、引き算のディティール、ほんとに素晴らしい。言うなればInstagramです。適切なネット上の情報があれば引用したいが、ない。当日のリーフレットから引くと

「春画」と一言でいっても、古くは平安時代から近現代まで数多の絵師が描いており、形式も様々、テーマも幅広く、実に豊かな世界をみせる。品格や値段という点からみた春画の頂点が肉筆春画であるならば、その対極にあるのが豆判春画ではなかろうか。大きさはおおよそ縦9センチ・横13センチ弱。12枚や8枚など組物として売られたものが多い。値段もお手頃なものであったと思われる。しかしながら、絵師が凝らした趣向がその小さな判型の中に凝縮されている。
豆判春画は文政期(1818 ~ 30)頃から盛んにつくられるようになる。小さな春画は携帯に適しており、新年には登城した大名たちがその年の暦を記した豆判春画を交換しあったという。豆判春画を携帯する、贈答するという伝統は近代に入ってもながらく続き、日清・日露戦争の時には戦地に赴く兵士に持たせることもあった。豆判春画は時代を超えてかなりの数が制作された。あまりに膨大なため、現時点でもその総数をつかむことはできておらず、研究もほとんど手つかずといえる。本展覧会に出品される豆判春画はいずれも今回が初公開となる。この愛すべき小さな世界をとくとご堪能いただきたい。

ということで、いまは本展に足をお運びいただいてご覧いただくしかない。僕も「素晴らしかった」という思い出だけがあって、切ない。ちょっと高かったけど図録買っとけばよかったな… そうそう、グッズ販売コーナーもなかなかパンチが効いてます。

 

僕が行ったのは平日だったけど、結構混んでました。
苦手な人もいるとは思うけど、ほんと素晴らしかったし、なかなかないチャンスだと思うので、ぜひどうぞ。 

大英博物館 春画 (   )

大英博物館 春画 (   )