YouTubeには何でもある。マルコム・マクラレンの「バッファロー・ギャルズ」
説明すると、いわゆる「スクラッチ」やサンプリング・ラップ、ヒップホップっつーものをミュージック・ビジネスつか、商業レコード、ラジオやテレビの世界にはじめて乗せたのがこの曲だ。
Malcolm McLarenは、ロンドンのろくでなしの若造どもをかついできて、曲やビジュアルもうまく作って、「Sex Pistols」という斬新なバンドを音楽ビジネスに投入して、「パンク・ロック」というものを商品に仕立てた男だ。何か金になりそうな新しめのものを掘り出してネタにするのは得意中の得意だ。
レコードを手でまわして、こすって音を出すというのは、一体なんてことするんだと当時たいへん驚いたのだが、でもそんなマテリアルを、ちゃんとポップ・シーンに流せる商品に仕立て上げている面でも、この曲とMalcolmはすごい。
で、ついでに調べてみたら、この曲のクレジットを見てさらに驚いた。Malcolm McLaren, Anne Dudley, Trevor Hornだった。
Anne Dudleyはオーケストラのアレンジや指揮からキーボードプレイヤー、映画音楽の作曲まで手がける才女で、なんといってもThe Art of Noiseの頭脳、事実上のリーダーとしての成果がもっとも有名だ。Buffalo Galsでもサンプリングは多用されているが、そもそもこの1983年は、そのデジタル・サンプラーというかFairlight CMIが運用されだしたまさにそのころ。で、そのサンプリングという機能の、ポップ・ミュージックにおける「強烈に効く武器」としての真価を発揮させだしちゃったのがまさにこれだったのだ。
Buffalo Galsの途中のCメロの裏の、アタック感のある涼しげな白玉コード弾きは、言われてみればまさにアート・オブ・ノイズでも多用されていた手法と音色で、とすればこれはまさにアン・ダドリーの手技だ。
さらにTrevor Hornであるが、ご存知「ラジオスターの悲劇」のバグルズとかYesを経てZTTレーベルを立ち上げ、The Art of Noiseに、Frankie Goes to Hollywood, Propaganda, etc..と、新しいデジタルとオルタナ風味の「ガツンと新しいポップ」をシーンに叩き付けたプロデューサーだ。というかまさにそのあと同年、Yesのアルバム「90125」の先行シングルカット「Owner of a Lonely Heart」で「オーケストラ・ヒット」というものをヒットチャートにたたきつけ、サンプリングという新兵器を「核兵器」に昇華させちゃった男だ。
MalcolmもTrevorも、十年規模でシーンの動きを読んで、新ネタを投入して自らプロデュースしていく奴らであり、良くも悪くも音楽業界を手玉に取れる器だ。
Trevor率いるZTTレーベルの看板、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドがやたらゲイネタや政治ネタで下世話なトピックを自分らであおり立てたり、わざと告訴したり告訴されたり、そうして結果的にレコードのセールスに繋げていく手腕は当時からピカイチだ。ちなみにt.A.T.u.なんかも久々にTrevor Hornがプロデュースしたユニットなので、彼女らがいろいろ騒ぎを起こすたびに、あぁ、トレヴァーのジジイ、いまだに達者なもんだなと、私は影で喜んでいた。
この曲Buffalo Galsで、「70年代の裏番長」マルコムから、「80年代の裏番長」トレヴァーに、まさに世代交替がおこったんだなと、いまさらながらに非常に感慨ぶかい。
そして、「スクラッチ」「ラップ」を活かした制作のうえで、おいちょっとサンプリングって下世話なことにも使えるじゃねえかと、そして同じ年にTrevorが手がけたYesのOwner of a Lonely Heartが生まれ、そしてまた同じ年にトレヴァーと彼のZTTレーベルから、サンプリングが世界に対して解き放たれたようなAnneのThe Art of Noiseが離陸し、Fairlight CMIも、音楽シーンの最先端を突っ走る、金を生む最新鋭機械という位置づけを確立する。
もっとも、スクラッチのシーン定着をさらに強化したのは、明らかにHerbie Hancock の「Future Shock」所収の「Rock It」で、これも1983年のその後。こっちには、アナログシンセのVCF発振音のプチプチをリズムトラックに取り入れるというKraftwerkのアイディアをあっという間に一般化させた功績もある。
というか、Buffalo Galsを22年ぶりに聴いて猛烈に感激した、ってことなんですけどね要するに。