随筆集。吉行淳之介の随筆を読みつけている人なら既出のエピソードもいくつかあるが、主たるものは書籍題名にもなっている「目玉」で、自身の白内障手術のまわりのものごとを、いつもながらの不思議な冷静さと透明なユーモアとかすかな残酷さで語っている。全体をとおして、すずしさと冷たさの中間ぐらいの、そして時折色彩がきらめくような文体が通されている。
吉行淳之介のエッセイは、そうとうくだけたエンタメ指向のものもあり、そしてそれらは口述筆記だったりするのかなぁ、あるいはこの陽気さは、逆に本人は相当体調や発作や鬱で参っている反動なのだろうなあ、とかおもうのだが、この一冊は、随筆でなく吉行文学のほうを好む向きにもいける一品。おすすめ。