転々 / ヒカシュー (2)

どうも難解だとか書いてしまったけれど、一回聴いただけではだめだ。というか通常の消費されるポップ音楽のように聴いてはだめだ。
赤坂で、明日発売される新製品の携帯の技術解析の仕事がおわって、乗る地下鉄の入り口を間違えて、ええいままよと銀座駅でおりて、銀座の地下の、地下鉄の地下道のコンプレックスを、このアルバムを聴きながら彷徨った。
キタ。
昭和ののこりの、モダンで、過去で、地下水のカルシウムの匂いの地下鉄と地下駅が好きで、それは6歳から都心をさまよっていた育ちなので、しょうがない。一生、花鳥風月の心境にはなれそうにない。
映画「望郷」(ペペ・ル・モコ) でジャン・ギャバンが「あの女はパリのメトロの匂いがする」といって現地妻を捨てて逮捕も恐れず港に向かってしまう気持がわかるかあなたは。
地上にでて、銀座の裏通りを、小雨の夜のなか、このアルバム2回分、あるきつづけた。
巻上さんのチベット倍音歌唱が、不気味なインプロが、ことばのフラグメントが、体験とあわさって、たまらなかった。
場末の映画館のポスターが、汚い消えかけたネオンサインが、歪んだ東京が、いとおしくてたまらなかった。
ごめんね。