東京防災ブックキットが素晴らしい件

話題になっていた「東京防災」の本。
うちにも届いた。

 

一式アンパックして広げたところ。
なんだろう、いいモノが届いたわくわく感が半端ない。

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きちんと地域別に作り分けられている。こりゃ手がかかっているな…
書籍本体は、読むにもよし、緊急時にパッと持ち出すにもよし、な絶妙のサイズ。
紙はすこし防水っぽい処理がされていて、たとえ泥水の中に落っこっちゃっても拭けばまた読めそう。

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もちろん地図も居住地域ごとに最適化されている。
こちらも防水っぽい、薄くて軽いがしっかりした紙。
裏側は、防災ブック本体を持ち出すには至らなかった際にちょうどいいような、災害時のノウハウのエッセンスがうまいことまとめられた、チートシート的なもの。

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防災ブック本体をおしりから読むとストーリーマンガ仕立てになっていて、しかも かわぐちかいじですよと。

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極めて印象深い真っ黄色なキットだが、しっかりユニバーサルデザインにもなってますよと。

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さらに細部まで魂が宿っているのがこれ。
冊子のはじっこ、実はパラパラマンガになっているのだ。
表から行く編と、反対側から行く編の2本立て。

平常時のコンテンツとしてのエンタメ性向上にももちろんなっているが、いざ有事の際、電気や照明や充電や、下手したら食料や仲間との連絡にも事欠く、寂しく不安なひとときに、ふと気づくこのパラパラマンガ。ふっとした気晴らし、そして「まぁ、落ち着いていこうや!」という懐をも提供する心意気を感じる。

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官がするあれこれというと、何かにつけて批判の対象にばっかりなってしまうが、こういう素晴らしいファインプレイは、きちんとしっかり賞賛すべきじゃないだろうか。大きさ、内容、まとめ、使いやすさ、デザイン、そして全体から立ち上るセンスの良さ。僕は賞賛するよ。

ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく / バーナード・サムナー, 萩原麻理

気づいたら和訳が出ていた。予約しておき、届いた。

優しく静かに淡々と書かれている一冊。いい本だったよ。バーニー。その筋のみんなは、みんな読みましょう。 

ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく (ele-king books)

ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく (ele-king books)

 

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか / ベン ホロウィッツ

Kindleで読んだ。私小説として面白かった。
小澤 隆生「おざーん」さんの序文も味わい深い。

Andreessen Horowitzは、技術とビジネスのバランスが筋のいいVCとしてレスペクトして動きをみている。

Marc AndreessenがNetscapeやめて、AOLもやめてLoudCloudを立ち上げたとき、青空に雲のふわふわしたイラストのトップページと説明文をみて、なんとなくしたいことが分かるような分からないような… でもアンドリーセンだから、先見性あるすごいことをするんだろうな… と思いつつ、そのうちつまらなそうな社名 (OpsWare) になっていって、ありゃ、その後パッとしないな… と思っていた。

昔からThe Internetのメタファーとしての雲 (くもくも) は使われていたけれども、クラウド資源をマネージする会社というのは、その必要性も僕には当時まだわからなかった。その中でどんなドラマが展開していたのか、今や本書を読めば赤裸々にわかる。

ある程度大人になって、物事を切り盛りしていけば、きれいなことも汚いこともいろいろ遭遇するものだ。本書は「明日から役に立つ!」という性質の本ではないが、そんな大人たちの頭とからだを前向きにしてくれる、良性の「あるある」本だと思う。大人のあなたに、お手すきで一読どうぞ。

イニシエーション・ラブ / 乾 くるみ

年々物忘れがひどい。

しかし、物忘れにもメリットはある。

何かのきっかけで (映画化されたからかな?) この書名を思い出し、かつてこれを読んだ時の自分の過去エントリを見つけたのだが、はて、どんな落ちだったのか全く思い出せない。

気になるので、Kindleでふと買って、読んでしまった。
読後の感想も、8年前と同じ。ちょっと気軽に楽しむならおすすめの一冊。

加えて思ったことは、この小説は各節の名前がJ-POPの曲名になっていたり、文中にさりげなく登場するJ-POPの曲名やアルバム名、あるいはテレビドラマのタイトルがいろんな意味でキーなのだが、僕はこのへんの知識体験が全然ないので、たぶんすごくもったいないのだろう。

というわけで、恐らく次回は2023年にまた内容を忘れて、これを読んで、同様のエントリを書くのだろう。みなさんお楽しみに。

決断の速い人が使っている 戦略決定フレームワーク45, 仕事の速い人が使っている 問題解決フレームワーク44 / 西村克己

とにかくフレームワークてんこ盛りの本。
Kindleなら「戦略決定フレームワーク45」は742円、「問題解決フレームワーク44」は599円と安いので、手元(クラウドに、だけどね)に置いておいて損はない。

それぞれ戦略と問題解決(戦術)に視野を置きかえた、編曲やリミックスだけが違う2枚のアルバムのようなものだから、重複もある。「問題解決…」のほうだけでもいいかも。

内容はお馴染み、マッキンゼーの7S, SWOT, PEST, PMマトリクス, なつかしのAIDMA, あるいは固定費vs変動費, などなど、フレームワークという「お仕事の整理の決め事」のお徳用詰め合わせです。ぜひ新卒のみなさんに。

といいつつ、ECRSというフレームワークは初耳で勉強になった。

「しょうもないルーチンワークや、かったるい業務、これなんとかならんの?」
(しかも、往々にしてこの手のものは、くそまじめな人たちが「決まっていることなんだから」と、大事に日々がんばって遂行してくれていたりするから始末が悪い)
みたいな課題をやっつけるときに使える。

  • E (Eliminate) = やめちゃう
  • C (Combine) = 統合する
  • R (Replace) = 置き換える
  • S (Simplify) = 簡素化する

例えば「マンションの各棟で回覧板を回す」みたいな典型的なしょうもない課題に対して、以下のように改善ツッコミができる。

  • E: そもそも回覧板って要るの? やめちゃえば?
  • C: 棟ごととか言わないで全部で一冊にしちゃえば?
  • R: 業者に外注できない? 管理会社に振っちゃえない? あるいは居住者とつながりたがってる商売人にやらせてもいーじゃん?
  • S: 年1回の発行でよくね? Webに載せてスマホで見ればいいじゃん?

重要なのが、優先順位は必ずE, C, R, Sの順である。ということだ。S (Simplify, 簡素化) は最後。これは本当にそうで、「そもそも、やんないでよくね?」ということが世の中には満ち溢れているのだが、そこを忘れて、ついうっかり「この工夫で改善できる!」とSの部分ばかり着目して、上の回覧板の例えでいうと、夜中にしこしこwordpressとか設定して「これで楽で便利になる!」とか喜んでいたりする。こんなのはダメだ。下手すると仕事の負債が却って増えてしまう。

というわけで、ドキドキワクワクの一冊(二冊)というほどでもないが、一種のチートシート的に、あっても損はない感じでした。

東大家庭教師が教える 頭が良くなる思考法 / 吉永 賢一

途中までワークブック形式になっている。面倒がらずに手を動かすとよいだろう。

後半は、良き思考のための道筋の付け方のガイドになっているのだが、つい先日「エッセンシャル思考」を読んだばかり (正確には、ワークブック形式の途中で投げ出してしまって、積ん読になっていた) なので、「エッセンシャル思考」のほうに圧倒的にキレの良さを感じてしまった。

というわけで、前半のワークは悪くなくて、でもって「エッセンシャル思考」もぜひ一読されたし。

セルフトーク・マネジメントのすすめ / 鈴木義幸

意識の向上に向けた本。

この手のジャンルの本は「ああ、はいはい……」という印象を持ってしまいがち
(こういう、反射的に発生する、ときにネガティブな内心の言葉が、まさにこの本でいう「セルフトークA」)
なのですが、この本はとても論理的な内容。かなり良かった。結構おすすめ。

いろいろ手元にメモしたものを抜粋。

  • セルフトーク: 感情・行動の引き金として自分の中に生まれる言葉
  • 各自の価値観、世界観がビリーフ (belief)
  • ビリーフが刺激 (stimulus) を受けるとセルフトークが生まれる
  • セルフトークは感情を決定する
  • 感情によって行動が決定する
  • セルフトークA (automatic): 刺激によって自動的に生まれちゃう。感情を呼び起こす。反応な行動を導く。
  • セルフトークB (bear): 自分の意思で生み出す。理性を呼び起こす。対応な行動を導く。

いわゆる「天使と悪魔」的な感じ?

doubtの語源はdouble heart
心が2つある状態の時(セルフトークA, Bが競っているとき) 人は疑う 

セルフトークAを減らすには?

  • 心と体を整える
  • ルーチンを作って守る
  • アイデンティティを正しく理解する
  • 自分を守るのではなく相手のことを考える
  • 期待しない
  • 他人に貼ったレッテルを剥がす
  • 未完了を減らす
  • 感情をジャッジしない

たとえば講演の前には、セルフトークBを使い、開演5分前までシミュレーション。5分前になったらシミュレーションは止めて、セルフトークを減らすことに注力。Fear into power (恐れを力に)

セルフトークがなくなると、ゾーンやフロー状態に入れる。
ポイントは、時間の縛りをなくし、プロセス自体を楽しみ目的とすること。

インナーゲーム: コーチングの始祖 W.ティモシー・ガルウェイが提唱した概念。
実際にテニスとか勝負してるアウターゲームに対し、心の中で起きている勝負。

インナーゲーム - Wikipedia

セルフ1
インナーゲームにおいて、すなわち心の中で、自分(セルフ2)に対して悪態をついているのがセルフ1である。セルフ1は、常にセルフ2の能力を信頼しておらず、命令を下す。そして結果に対して裁判をし、「判決」を下してセルフ2を非難をする。このようなセルフ1の働きは、セルフ2の働きを著しく妨害している。しかしセルフ1自体は何も実行することがない。セルフ1による妨害に気づいて、これを自ら非難したり、自ら阻止しようとしても、それもまた自らに対する非難であり、セルフ1に他ならないため、かえってセルフ1の勢力を増長させることになるため、きわめて厄介である。

セルフ2
インナーゲームにおいて、すなわち心の中で、セルフ1によって非難されている側がセルフ2である。セルフ2は無意識的あるいは潜在的な身体能力をすべて含んでおり、実際の運動機能を司っているとされる。セルフ1はつねに言語によってセルフ2に命令を下すが、実際にセルフ2が果たしている機能は常にもっと複雑であり、セルフ2はセルフ1による言語命令をうまく理解できないため、常にこの命令は不本意な結果に終わりがちである。その結果に対して、セルフ1はセルフ2をさらに非難し、次なるより厳しい命令を下す、という悪循環に陥る。

予備校なんてぶっ潰そうぜ。/ 花房 孟胤

この本は出版予定となったときから予約していて、ずっと手元にあったのだが、うっかり後回しにしていた。

思っていたのとかなり違う読後感。
中身の詰まった小説を読みきったあとのような読後感。
そう。いわゆるビジネス本とかスタートアップ本ではなくて、私小説です。

雰囲気としては、Linus Torvaldsの「それがぼくには楽しかったから」(Just for Fun) に似ている。あの本はひとりの大学生がLinuxを創り出すまでの悩みや喜び、あるいは恋愛や初体験まで書いてあるが、それと同じぐらい、この本も文字で自分に向き合っている。しかも、ときに痛く切ない。青春というと安っぽいラベリングでごめんだけど、まごうことなき私小説でした。

著者、かつmanaveeを創出した花房さんは、僕らが定期的にやっている、学生向けセキュリティCTFイベントScrap Challengeに、2013年1月に参加してくれている。そのときも、懇親会の途中ですみませんサーバの様子がとPCを開いてメンテナンス作業をしていたのを(後になって)思い出す。

しばらく時がながれて、coconala未来会議「教育ビジネスの未来」というイベントを会社で開催し、会場提供など遂行をやっていたとき、「森本さん?」と声をかけられた。それが、NPOのかたちをとって、manavee代表としてパネルディスカッションに出演してくれていた花房さんだった。
最初「えっ?」とびっくりし、一瞬の間をおいて、Scrap Challengeで合間を縫ってサーバメンテしていた、あの学生さんとの認識がつながった(ごめんなさい)。

manaveeはいまも動き続けている。
サイトとしても、団体としても。「生徒の卒業文集コーナー」なんてものもできていた。

manaveeがいつか何かをdisruptするのか。
それはわからないけれど、これからも楽しみだ。月並みなワーディングでごめんだけど、がんばってください。

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと / 磯崎 哲也

磯崎哲也さんの、ある意味定番本。

特に面白いな、と思ったのはベスティング (vesting) のところ。一般には退職や転職に伴う、確定拠出年金の権利・資産の持ち出しのことを言うらしいが、ここではストックオプションの権利行使のことを指している。

ストックオプションは、権利付与して2年は行使不可能な条件をつけ、せっかくSOをあげた人がほいほい転職流出していってしまうのを防ぐというのがよくあるパターン。前職でもそんなでした。あるあるですし、論理はわかります。

ですが、そこに加えて。引用。

一方で、ベンチャー企業は経営が不安定な未上場の時よりも、上場する前後からいい人材が多く入ってくることもよくあります。
人材を絶対的に「良い」「悪い」に分けることなどできませんが、創業の激動期にゲリラ的な活動をするのは得意だが、上場企業でややこしい規定や規則に縛られながら大組織をまとめあげていく場合にはあまり力を発揮できない、という人はよくいます。
(もちろん、「ポストが人を作る」ということもあるので、やってみたら上場企業でも活躍できた、という人もたくさんいます。)

 

そういう人は、無理に上場企業に縛りつけておくのではなく、今までの功績に経済的に報いたうえでポストを退いてもらうほうが会社のためになるかもしれません。つまり、企業が成長するのに合わせた人材の「新陳代謝」です。
古くからいる従業員だというだけで、上場企業の業務に向かない人が重要なポストに居座っていたのでは、会社の成長は望めません。

なので、べスティング、つまりSO行使縛りのキメは、株主総会決議が必要な要項では行わず、会社と従業員との個々の契約で定めておいたほうがよい、という話。

すごいわかるし、なるほどなー。です。

などなど、とてもすべてが頭に入るようなものではありませんし、いまやobsoleteになっている部分もあるとは思いますが、一読しておいて損はない一冊と思います。