イギリスの冒険小説、というかハードボイルド系の巨匠ライアルの、これが処女作らしい。
いまは輸送機パイロットである二人の元RAF (英国空軍) 戦友が…あまりストーリーを説明してしまうのは適切でないが、男のロマン、サスペンスがひたすら渋く展開される。この手の英国サスペンス小説にありがちなくどいレトリックも、本作では控え目であり、そういった臭みも薄い。というか、フレデリック・フォーサイスの文章は(翻訳によるとはいえ)比較的読みやすいのだが、それはイギリスのサスペンス作家としては例外といっていいぐらい、ぷんと香る厭味な香水のようなくどいレトリックがほとんどみられないからではないだろうかと今思った。登場人物に近い位置付けで描かれる、輸送機ダコタ (英国空軍でのダグラス DC-3) とピアッジオ双発機に対する主人公たちの思い入れのさまもなかなかよろしい。後にシトロエン文学の最高峰(?)とされた深夜プラス1に至るライアルのペダントリィの原型を感じる。
ライアル作品のなかでは、初期の作品ということもあり、若干薄味なのかもしれないが、読みやすい作品であり、まあまあおすすめできる。アリステア・マクリーンとか好きなかたにもぜひどうぞ。ただし、「ドーン! ババババ! やったぜやっつけた!」というようなシンプルなカタルシスを感じたい方は、テレビのアニメか、桃太郎の絵本でも読んだ方がいいだろう。(こういった厭味なセンテンスがぽっと出てしまうのも、良くも悪くも英国作家のモノを読んだ直後の所為かな?) ここにあるのはせつなくも苦いほうの男のロマンなので、読んでスッキリ、スカッとしたい場合にはあまり向かない。