侍タイムスリッパー

休日の土曜に急にこの映画のことを知り、行ってきた。大満足した。

内容は題名のとおり。タイムスリップものはよくあれど、幕末の武士が気絶から目覚めるのがいまの太秦撮影所というアイディアが面白い。諸葛孔明がいきなりハロウィンの渋谷に出てくるのもいいが、自分がいる江戸時代の町並み(に見えるもの)から主人公が徐々に違和感を感じていくというプロットにはいろんな展開や面白さを織り込める。本作は低予算ではあろうが安物ではない。脚本よく、出演者もみな巧く、ガチャガチャしない落ち着いたカメラワークも雰囲気に合っており、コメディ要素も含みつつ、シリアスみやヒューマンドラマもしっかり押さえ、あぁ面白かったと万人が愉しめる、まさに映画らしい映画だ。


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この映画は舞台が「時代劇の撮影セット」であることが要だが、脚本を読んで気に入った東映太秦撮影所が全面協力したとのことで、まさに舞台はホンモノである。本物とはいっても本物の偽物、あるいは偽物の本物か。時代劇好きたちが立場を超えて協力して作り上げた一作ということに胸熱である。

エンドロールを見ると、監督がなんでもかんでもやっているのがわかる。さらに、ほぼヒロインにあたる助監督の役のおねえさんは実際に制作がわとしても助監督や小道具に運転にあれこれと、持ち出し手作り感がすごい。もちろん役者さんとしても良い。 キャストみな良くて、話の途中から出てくる、かつて時代劇スターだった先輩俳優(の役)のひとも萬屋錦之介感のある空気を醸し出していたし、なんといっても主演の役者さんが最高だ。きりりとした侍らしき気品のある漢らしい顔つき、武士の誠実さを放つ表情、会津っぽらしき訛り、構えや太刀筋のかっこよさ、時おり見せるはにかんだような笑顔のチャーミングさ、まさに申し分ない。

ちなみに主人公が幕末の会津藩の武士だったというのもポイントで、会津藩は幕府側勢力、つまり大政奉還によって敗北したほうの陣営であり、彼が所属し守るべきだった会津のひとびとは明治政府という新勢力、とくに長州藩クラスタによって過酷な蹂躙を受けることになった、ということも知っていると(かなり胸糞なので知らないほうがいいかも)、話の後半から主人公が感じてゆく無力感や悔しさの重みが倍になる。

8月に公開されたとのことで、自分が見に行った2024/9/7はまだ川崎チネチッタと池袋シネマロサの2館でしかかかっていないが、徐々に上映館拡大の見通しはあるらしい。とはいえ、小さめの小屋で観る良さもあって、シネマ・ロサはまさに満員、館内は笑いや拍手でいっぱいで、まさに映画館で映画を鑑賞する体験ができた。「カメラを止めるな」がまだシネマ・ロサぐらいでしかかかっていなかった頃を思い出す。そういえばあれも劇中劇だった。(劇中劇中劇かも) なので観ておくなら今のうちですよ! 舞台挨拶もありました。

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