ドイツのロケット彗星-Me163実験飛行隊、コクピットの真実 / ヴォルフガング・シュペーテ

Me163コメートというと、世界初、そして事実上最後のロケット戦闘機というのは皆さんご存知だろう。本機の特徴がロケット推進機関にあることはいうまでもないが、無尾翼機・全翼機の最初の実用例であることも決して見過ごしてはならない。

評価機DFS194の試験部隊から、唯一のコメート実戦部隊JG400までを率いた、テスターかつ評価者かつ指揮官シュペーテの筆に出てくる登場人物は、ルフトヴァッフェ総監アドルフ・ガーラント、戦前からの全翼機研究家にして戦後の超音速機設計にも多大な影響を与えたリピッシュ博士、同じく無尾翼機研究開発の大家ホルテン兄弟、アフリカのハンサムな撃墜王ハンス・マルセイユ、アドルフ・ヒトラー、ノボトニー、ゲーリング、ヒムラー、第三帝国を股にかけた女性テストパイロットのハンナ・ライッチェと、中期〜末期のドイツ航空界の人間模様を横断して、百花繚乱だ。

挿入される写真群も、中学高校のころ粋がって渋谷のアルバンに通い、ヴァッヘン・アーゼナルシリーズとか独語資料を小遣いはたいて買っていた僕には既出のものも多いが、それでもロケット全力噴射で離陸するMe163Bの迫力ある空撮や、あるいはMe163ロケットエンジンの混合燃料、猛毒かつ爆発危険性の高いZ液に、人間を溶かすT液を浴びて半身が溶解してしまったパイロットの事故写真など、鬼気迫るものもある。

全体としてかなりエッセイふうに流れていくので、資料性というよりは読み物としてよいだろう。ただ、Me163をめぐるテクノロジ、時代背景、登場人物あたりにある程度の基礎知識がないとむずかしいだろう。