椿三十郎

「椿三十郎」のリメイク。観た映画館が画止まりやブレなどいまいちで残念。

おもいのほか、黒澤明の原作に忠実に作られていた。

椿三十郎 通常版 [DVD]

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映画そのものはなかなか悪くなかった。黒澤明の原作と比べちゃいけない。原作があまりにすばらしくて面白すぎるのだし、長年の名声や思い入れといった、理屈じゃないものもさらに重なっているのだから(けなしているわけではなく、そういうのも加味されてさらに素敵になるのが映画や音楽のいいところ)。

悪役のトヨエツはなかなか良かった。主役の織田祐二も悪くはなかったけど、「抜き身の刀」じゃないんだなあ彼は。キャラの違いなのでしょうがない。ほか若侍たちもあの雰囲気を出していてよかった。城代家老と奥方は、もっとまったり演じたほうが「器のでかさ」を感じたはずなのでもうちょっと。劇伴音楽は安っぽくチャチで余計。リメイク版でいちばんダメなのはおそらくここ。 

原作との違いで気付いたのはこのへん:

 

  • 若侍たちが金魚のフンのようについてくるシーン: 石に当たってコケる演出が追加
  • 馬小屋から馬を逃がすシーン: 原作では、馬を逃がしたことにより追っ手がミスリードされたことがより明快に演出されている
    流す椿は紅いのがいい、白いのがいいと奥方と娘が話すシーン: 三十郎が所在なげに碁石をいじる演出が追加
  • 三十郎が「若侍達が寺に集まっているのを見た。云々…」と偽情報を室井に教えるシーン。原作では三十郎が話をしゃべりだしたところでシーンを切っている。リメイクでは、ひととおり喋りおわるまでをシーンとしている。ここは冗長だし、「飲み込みの悪い観客にもこれで判るだろう」という意図を僕は感じてしまって気分が良くないし、原作の、ばっさり省略してしまいあとは観客の想像に任せる演出のほうが優れていると思う。「七人の侍」の、菊千代が落馬するところはあえて映さず、観客の想像・補完から笑いにつなげる演出と同様のセンスがあると思うし、そこが劣化しているのは残念。
  • 屋敷から家老たちがあたふたと椿を流すあたり
  • 例の最後の「ピュー」はなし: 白黒のスローモーションで表現されていて、悪くはないけど、NTSCなアラも見えたりして、うーん。

とはいうものの、ほんと想定外に原作に忠実だった。ラスト近く、菊井がこれまでかとくずれおちる、そのタイミングで椿が一輪ぽたりと落ちて流れにのる、あそこなんかもう完コピですよ。 

みんなで肩凝らずたのしめる娯楽映画として悪くないし、ぜひどうぞ。で、これをみて面白かった人は、ぜひ原作も見て、さらにさらに楽しんでほしい。原作を観たことない人は、確実に人生を損してますよ。