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中年男を泣かせ殺すスーパーボウルのAudi R8コマーシャル

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アメリカで毎年の恒例行事となっているスポーツイベント、スーパーボウル。
国民的行事であり、かつケーブルテレビが発達した米国で「みんなが同じ番組を見る」ケースがほぼこれしかないこともあり、Super Bowlのテレビ中継でかかるコマーシャル枠は世界一高価なことでも知られている。

今年のスーパーボウルで流れたTVCFは、Audi R8というクルマのコマーシャル。
Audi R8は、2,000万円クラスのいわゆるスーパーカー。

このような非日常のプロダクトに共感軸をつなげるのはなかなか難しいが、このCMは、抜群のテーマと選曲とタイミングで、ミドルエイジ以上の男性の胸と涙腺をわしづかみにする一作に仕上がった。

タイトルはCommander.
このコマーシャルの文脈で訳すとアポロ宇宙船の「船長」だ。



かつてアポロ宇宙船を駆って月に届いた宇宙飛行士。いまは老いて、夜食にも手を付けず、失った感情で静かに一点を見つめるのみ。

そこに現れた息子。

Okay, Commander. Come with me.

誘い出し、一緒に家の外に出た父に、息子はキーを渡す。Audi R8 V10 Plusのキーを。

夜の闇に輝くR8に歩んでゆく老船長。次第に、アポロに乗り込んだときのあの自分、地球を飛び立つ前にクルーと交わした目、ロケット噴射、そして轟音と振動とともに地球を離脱していく高揚感が、R8のスイッチを入れ、イグニッションを押し、スタートしていく今この時とフラッシュバックして重なる。

そして、ここにかかる曲が、David BowieのStarmanなのですよ。

まず、かつての英雄が、栄光の追憶を胸に、厳しい眼差しで黙り続けているのがいいでしょ。
そこに現れるかっこいい中年男の息子の、優しさを眼の奥だけに秘めた父への眼差し。
そして「オーケイ、コマンダー」との呼びかけ。この老いた男は明らかにかつてアポロで月に行った宇宙飛行士だから、Commanderが指すものは「船長」だね。
英雄への敬意と父への友情、そして奥底にある優しい愛情。ここだけで、すでに涙腺がすこしアップを始めます。

夜の光のなか、外に佇むAudi R8に老船長がゆっくり歩んで近づいていくあたりから、ギターが聴こえてきます。なんとも優しいリフ。
David Bowieのジギー・スターダスト (The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars) は、宇宙からやってきたロックスターが地球を訪れるというストーリーのコンセプトアルバム。その中でもっとも有名なのが、このCMで使われているStarmanという曲だ。 

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (2012 Remastered Version)

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (2012 Remastered Version)

 

このCMには、曲名もミュージシャンのクレジットも一切出ないのだが,

Starmanがお空で待っているよ

サビのこのフレーズが優しく歌いあげられるところで、アポロの老船長と「星の人」が重なり、そして分かるひとには、つい先月亡くなったばかりのデヴィッド・ボウイの歌声だということと相まって、まるでボウイがお空から、宇宙から、天国から笑顔で見守っているようにイメージが重なって、ここで涙腺が決壊。

徐々に加速していくR8, 少しずつ笑顔と情熱を取り戻す船長。
ヘアピンを抜け、ギアシフトしていくたび、サターンロケットの一段め切り離し、二段目のジェッティソン、そして栄光の冒険の思い出がフラッシュバックし、

Let the children lose it,
Let the children use it,

船長の眼差しは少年の輝きを取り戻す。
ううう、号泣…

そしてコーナーを抜けると、目指す空には光り輝く満月。
船長は再び月を目指す。R8で。

Let all the children boogie.

うううぅ、うわわゎーん………

Audiは、というかVWグループは昔から広告のアイディアやキレがすごいのだが、これもクォリティ満点の作品に仕上がった。
「かつての男の子」層以外にはまったく響かなそうだが、商品ターゲットを考えれば、この共感軸の絞り込みで問題ないだろう。

ボウイが亡くなったのが1月、このCF公開が2月頭。たまたまこういうタイミングになったのか、急遽仕込んだのか、どっちだろう…

R8のCFには、ほかにこんなアイロニカルな一作もある。