トロン・レガシー

観てきた。

3D映画、しかも視覚体験を楽しむ方向の映画だろうから、絶好のウォッチポイントに座るべく多少気合いを入れて望んだけど、ベッドタウンのシネコンの夜中の回の観客は、全員集めて野球チームができるかどうか、という程度の人数だった。

結構観るひとを選ぶかも。 

新感覚アクションを観たいひとには、それほどアクション・シーン詰め合わせってほどでもないので、どうかな…

そもそも、出てくる人物(?)や世界観などが、いきなり今作だけ観てもわかるかどうか。いや、観てはいても、設定やストーリーはあってないようなもので、なんだかよくわからないがとにかく戦うんだという、ディズニーよりは少年ジャンプな世界だ。

暗闇になまめかしく光るゴム的な艶っぽい映像感覚はたしかに独特。ただそれだけで映画館に今すぐ足を運んで、座って3Dメガネをかけろ! というかというと、少し弱いかな…

これはやっぱり、1982年の「トロン」を観たひとたちむけの映画だと思う。僕は初代を中学生でリアルタイムに観ているので、コンピュータ空間にジャック・インする設定には、すでに8bitパソコンに深入りしつつあった僕には絵空事すぎるとは思いつつも(そもそもリアルに中二だし)、「ちゃんと陰線消去してんじゃん!」なコンピュータ・グラフィックスの頑張りには感銘を覚えた。そもそもコンピュータがテーマの映画なんて、これがはじめてだったのだ。 

初代も今作も、コンピュータ世界に入り込んじゃって無理矢理ゲームな戦いに巻き込まれるわけだが、初代はもともと画がオモチャっぽいので、ゲームすぎる展開にも違和感がない。そこが今回は、画がきれいでリアルになった反面、ちょっとつらいかな。いろいろと新しい概念や種族? が出てきて、ストーリーを肉付けしようとしているのだが、あまり成功しているとは思えない。ラストのほうのあの伏線がまったく回収されないのも、どうしたことなんだろう。

この映画は、初代トロンに感銘を受けたかつての少年たちが、ひさびさのリバイバルを楽しむ、この体験がストライクゾーンだ。つまり40代以下のひとにはあまり向かない。

かつての伝説の栄光のバンドの一夜の再結成を観に行ってたのしむ。まさにこれに近い。たとえばエマーソン・レイク・アンド・パーマーの再結成ライブとかをオッサンたちが楽しむのと同方向だ。このオーケストラの音はメロトロンという楽器でね、とか、キース・エマーソンが弾くヤマハGX-1は当時800万したんだぜ、という思い出やうんちくを重ねあわせながら楽しむもの。ただのへなちょこストリングスの音じゃないかとか、今やヤマダ電気で売ってるエレクトーンのほうが良い音するんじゃないか、とかそういうことは抜きで、力をぬいて、思い出の蘇りを新たな視覚体験に重ねて、おとなの気持ちで楽しむのが正解だろう。ヘンなゲート形の戦車に、光学帆船(なぜか鉄道っていう設定になってたけど)や電子空母、何もかもみな懐かしい。何よりもライトバイクの疾走に、キター、と楽しんでいただきたい。

そう考えると、音楽にダフト・パンクを抜擢したのはかなり正解で、あのベタかつチープだけど仰々しい音は、今作にずばりマッチしている。バーのシーンで何度も何度も本人たち(かどうか知らないけど)が出てくるのはちょいうざいけどね。導入シーンのゲームセンターのジャーニーとユーリズミックスも、おっさん殺しを心得ていてうまいです。

 

CG担当はデジタル・ドメイン

字幕は戸田奈津子だけど、字幕監修に大口孝之先生の名前がありました。