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檀 / 沢木 耕太郎

檀一雄の奥さんに取材し、それを私小説のような形式でまとめた、疑似私小説? 

檀 (新潮文庫)

檀 (新潮文庫)

 

 檀一雄、さらにその妻からみた作家のいきざまというと、どうしても火宅の人をモデルとせざるを得ない。愛してもいる妻の家庭から、愛してしまった若手女優との二重生活、そこにさらにまた別の女性との逃避行と、ほぼ実在の事件と人物をもとにしたイッヒ・ロマンである。

これを妻の立場から描いたものというと、ひたすら恨み言が書かれた、投稿で荒れた発言小町のようなものを想像するかもしれないが、この一冊は違う。たぶん比較的男っぽい性格のヨソ子夫人ならではの、悩みつつ苦しみつつも前に進んでゆく心意気とリズム、あと、常識人の道からは外れつつも、やはりどうにも魅力の温度を発散していたこの作家の生きざまとが交差し、さらにそれらを、第三者が取材し一人称で記すというこの本の変わった構成が、ひときわ興味深いものにしている。

これはちょっと想定外に面白かった一冊。上のようなあたりに興味があるかたにはぜひおすすめ。

ところで檀さんの家というと、石神井居住者にはおなじみの風物(どっちかというと「檀ふみさん家」)だが、道路の延長でそろそろついになくなってしまうらしい。
「火宅の人」をたぐっていくと、石神井在住もそうだが、腹違いの重度心身障害者の息子が秋津療育園にいたり、外の女性との何やらな部屋が目白あたりにあったりとか、亡父とのシンクロがいろいろあって興味深い。
小林秀雄好きの文学青年だったこともあるらしい彼に、「お前、このあたり狙ってただろw」と、ちょっと突っ込んでみたくなった。