最後の伝令 / 筒井康隆

短編集。

「人喰人種」「北極王」「樹木 法廷に立つ」「タマゴアゲハのいる里」「近づいてくる時計」「九死虫」「公衆排尿協会」「あのふたり様子が変」「禽獣」「最後の伝令」「ムロジェクに感謝」「二度死んだ少年の記録」「十五歳までの名詞による自叙伝」「瀕死の舞台」

書名にもなっている「最後の伝令」は、(ああ、陳腐な表現だけど)「ミクロの決死圏」ネタを筒井風に料理した感じで、「小隊長」から「エロチック街道」あたりの筒井作品も割と好きな僕にはわるくなかった。 

最後の伝令 (新潮文庫)

最後の伝令 (新潮文庫)

 

が、最後にあたまをがんとやられたのが「瀕死の舞台」

演劇場で老衰した役者が立てなくなってしまい、寿命もわずか。ならばそのまま舞台に出し続けたほうが本人の気力にもなって。という、もういつ死ぬかわからない老人を交えた劇の興行の話。途中で老人のモノローグになってから最後にいたるまで、シンプルな話なんだけども、もともと役者を志していた著者の演劇に対する熱くてあったかい気持ちの入りかた、しかし冷静な客体としての報告者でもある文体、そんなこんなで、短編なのに、なぜかわからないが鳥肌がたって猛烈に感動した。なぜ感動しているのかよくわからないのだが。エンターテインメントでもあり、アバンギャルドでもあり、クールでもありヒューマンでもあり、まあそんなカタカナなど並べていないで、個人的に2008年読んだもののベスト1候補はおそらくこの一編。