ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT

ケレン味たっぷりのアメリカのカー・アクション映画。舞台は東京。いや「トウキョウ」。その、おそらく計算づくの「ガイジンから見たテクノポリス・トウキョウ」のズレもたいへんたのしい。

ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT  (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾) [DVD]

主人公のショーンは、絶対そうは見えないけど高校生。渋めの一途キャラ。女がからんだ諍いでクルマでレースで決着という羽目にいつもなってしまう。もはや居場所がなくなり、幼いころ別れた父が住むトウキョウに引っ越してくる。詰め襟制服で都立高校に通学しだした主人公だが…

「ガイジン」の女の子や、界隈を仕切るヤクザの甥っ子、そして彼ら・彼女らをめぐる不良文化や、ストリートやクローズドな駐車場でのドリフトレースなど、「こんな奴東京にいねーよ!!」の連続で、ケレン味いっぱいでたいへんたのしい。
登場人物たちは、突然日本語をしゃべりだしたり、基本的にいつも英語をしゃべっていたりするが(なんて英語教育が進んだ都立高校なんだ!)、これは映画なのでそんなことはどうでもいいだろう。ときおりかぶさるラップ・ミュージックも英語と日本語まじったやつで(イラッシャイマセー、とか)、ユニット名も SUKIYAKI Boyz である。なんとも嬉しいではないか。(実体はRip Slymeとかの変名ユニットみたいだ)

悪い奴系のクルマたちはVeilSideのチューンド・カーが多くて、いかにもヴェイルサイドらしい、湾岸世紀末ハルマゲドンふうのマガマガしいルックスの車両がおおい。
主人公のほうは、まず冒頭に人から借りた S15 シルビアを全損にしてしまうところから話が始まるのだが、そこから紅いエボVIII (かな? ブーレイ鼻のやつ) を譲りうけてメインの乗機にするなど、いかにも主人公むけの選択となっている。
そして最後の対決では、東京在住のUS NAVY軍人である父がひそかにレストアしていた初代フォード・マスタングに、クラッシュさせてしまった S15 が実は積んでいた RB26DETT (!) を載せ変えて、敵役の VeilSide Z33 に挑むという、アメ車ファンなら指笛をピューピュー鳴らし、日本車ファンなら思わずスクリーンにお賽銭を投げてしまうという、ベタそのものの展開となっている。
ひたすら日本車ばかりが走り回ってきたこの映画のラストシーンとして、この組み合わせは、日米双方のクルマ好きのワルにカタルシスをもたらす点で実に巧みだ。クルマに詳しくない人にとっては何のことやらだろうが。

妻夫木聡とかけっこういろんな人もこっそり出演していて、主人公が埠頭でひたすらドリフトを練習している様子を「カウンターがなっちゃいねえ」「少しはできるようになってきたみたいだな」などと評する、ぼんやり釣りをしているオッサンは土屋圭市だったりする。

映しだされる東京の風景は、東京って歌舞伎町と渋谷ハチ公前と首都高C1と三田しかないのかよ?というセレクションで、この映画のねらいから考えれば大正解だろう。東京ロケもあったようだが、公道でドリフトしまくりの撮影など日本ではできないので、ロスに新宿通りや渋谷交差点の大きなセットを作って撮ったようだ。メイキングを見ると、ウイルシャー・ホテルの脇がまんま新宿とか青山一丁目をミックスしたような景色に変貌していて実におもしろい。モブ・シーンに使われる車(モブ・カー?)も、いかにもそのへんを走っていそうな軽自動車や東京無線のタクシーだったり、トウキョウの再現に相当凝っていることがわかり楽しめる。

映画全体を通して感じられるのは、確かにこれはハリウッド映画なのであるが、ハイテクやハイ・パフォーマンス・カー、そしてドリフト(むしろDORIFUTO)や峠(TO-GE)、YAKUZAなどを内包するニッポンへのポジティブな興味と面白さだ。日本をバカにする感じはまったくない。基本的にUSの太陽の光のもとで話が展開するこれまでのワイルド・スピード・シリーズとはまったく違い、渋さと暗さのなかのギラギラさが中心の本作はなんともアジア的でニッポン的だ。

というわけで、この映画は細かいところやツッコミどころが気になってしょうがない人には向かないが、クライマックス・シーンのひとつ、通行人で黒山のひとだかりの夜の渋谷ハチ公前交差点のどまんなかを、真横ドリフトで抜けていくFD3SZ33CT9Aを笑って受け入れられるかどうかです。香港版 頭文字Dブラック・レインブリットあたりが好きなひとにはお手空きでどうぞ。