イニシエーション・ラブ / 乾 くるみ

僕は300サイトぐらいのRSSを毎日見ている。誰かが何か本をお勧めしていると、面白そうであればソーシャルブックマークとか、amazonのウィッシュリストにどんどん入れてしまう。そしてときたま「棚卸し」のように、それらを購入したり、あるいは図書館の予約リストにどんどん移していく。
図書館で予約した本は、完全に忘れたころに「確保できました」と連絡がはいったりして、借りに行く。だから、その本を手にするころには、いったいどういう経緯・理由で以前の自分がこの本を手配したのか、まったく覚えていないケースも結構ある。

この本もそのパターンだ。読みすすめると、奥手の大学生の男の子と、ちょっと年下の女の子の、なんだか甘酸っぱいラブストーリーで、こういうのも別に嫌いではない。テレビドラマと違って小説なら、役者の下手な演技、過剰な演出、安っぽい音楽にうんざりすることもなく、素直にベタな恋愛物語もたのしめる。 

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

そんなわけで、食後にビールを飲みながら、いやー懐かし恥ずかしでたまにはこういうのもいいもんだと、レコードのA面とB面を模した構成のこの本を一気に読んでいったのだが…

(ここ以降の説明はネタバレの気配があるので読まないほうがいいのかも。)

 「どういうジャンルの本なのか知らないで(忘れて)読み進めていった」のは、この本への接し方としてはとても幸運だった。酔いも手伝って、すっかり油断して素直に読んでいったので、作者の仕掛けたミスリードにも、結構あとのほうまでみごとにのっかることができた。

いや、僕がこんなベタな恋愛モノを借りるかなあ、きっとパラレルワールド系の落ちがつく本なんだろうとしばらく思いながら読んでいたのだが、女の子とつきあいはじめた初心な男の子のお話というのはなんともうれしはずかしで、いつしか素直に行を追うようになっていた。
なんか微妙にツメが甘いな、とは何度か思ったのだが、まあこういうピュアなラブストーリーに細かい首尾結構を求めても野暮だなあと、ことごとくスルーしていた。まあある意味パラレルワールドな話だったわけですね。

本作の構造をミステリー・マニアや「本格の鬼」みたいにがっついて解析するならいろいろ物足りない面もあるのかもしれないが、作者の仕掛けたミスリードやヒント、A面B面という本書の構造など、まず読んで、裏切られて、再読してさらに楽しめる。ちょっと気の利いたエンタテインメントを読みたいなら結構おすすめ。