Black Celebration / Depeche Mode

デペッシュ・モード中期の佳作。「プログレ・ダンスポップ」と名付けたいようなタイトル作Black Celebrationはとても良く、暗く渋いFly On The Windscreen,暗いIt Doesn't Matter Twoなども良い。

このアルバムで最初に先行シングルカットされたStrippedは、このころからのMartinのシンプルなメロディ、いや「シンプルな、音の、ならび」の作風のはじまりみたいなものを感じる。イントロに思いっきりギターが使われているのも当時は衝撃的だった。

シングルカットでいうと、Question Of Time, Question Of Lustの両方はいずれもみごとにMTV路線のメジャー狙いな曲調。特に後者は「ヒット曲のつくりかた」のど真ん中のようなメロウなバラードで、ライオネル・リッチーやボン・ジョビがテレビでこれを唄い込んでいてもまったく違和感がないような代物だ。すごい上手につくってある。Martinやるなあ。ただデペッシュ・モードというブランド(事業体)でそのアプローチがうまくいったかというと、どうだろう。

長い目で見てこのアルバムでいちばんの名曲だと思うのはHere Is The House. まるでYazooのような骨太いミニムーグのシーケンス・ベースに、Martinの切ない青春路線(その味が残っているのはこのアルバムぐらいまで)に、ガロか同棲時代のような切ない歌詞。Here is the house where it all happens,Those tender moments under this roof,Body and soul come together as we come to closer togetherですよ。

その次のWorld Full Of Nothingも良い。初体験の喪失感をどっちかというと女性側視点の三人称で描いた、なんか珍しい作風のもの。三拍子のDressed in Blackも良い。

ラストのNew Dressは愚作。
僕らは貧乏でどうしたこうしたで云々で、それなのにダイアナ妃はきょうも新しいドレスを着ているよ、さあ労働党政権にvoteして世界を変えないか?というそういう奴で、イギリス一般民はこういうの好きですな。The Style Councilも、歌詞はひたすら赤旗を朗読しているような代物だ。まあいろんな不平不満や差別からいい音楽は生まれるものだけど、俺は二十歳過ぎて政治の話をする人は「阿呆」だと思っているので、特にデペッシュ・モードがこういうのをやるのはいただけない。
曲のほうも、締め切りギリギリになっておしっこをがまんしながら書いたのではないかという出来で、最悪につまらない。エンディングで、Strippedのイントロのフレーズがリフレインされ、調が長調になって、アルバムは終わる。アルバム全体をポジティブに円環に締める工夫なのだろうが、僕にとってはむしろアルバムがだいなしになったという気分。
こういうモロアジな曲は結局この一曲だけで終わった。はずかしいことが分かったのかもしれないし、アルバムが出た後ダイアナ妃はトンネルに車で突っ込んで死んでしまったのでバツが悪かったのかもしれない。
それ以降、Agent Orangeしかり、Christmas Islandしかり、情景描写的なオカルチックなインスト曲がシングル B/W によくカップリングされるようになった。これらはご存知のようにベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の名前だったり、英国が使っていた核実験場の地名だったりする。
どうせならこのように音楽・芸術点で勝負していただきたい。

CDだとBut Not Tonightも入っていた。これは最初Strippedの裏面だったはず。明るい可愛い良作で、デペの歴史で頭のすみに忘れず置いておきたい。当時の記憶ではイギリスのテレビドラマの主題歌になったはずで、そのせいか、裏表を逆にしてジャケットも入れ替えた「表But Not Tonight,裏Stripped」という12インチも出回っていた気がする。