セルラー

傑作アクション・サスペンス映画。まずはいつも愛読している前田有一の超映画批評からこの映画の解説の出だしを引用。

平穏に暮らしていたヒロインの教師(K・ベイシンガー)は、突如乱入してきた男たちに拉致され、そのまま監禁されてしまう。監禁部屋には粉々になった電話機が一台。彼女は持ち前の科学知識を生かして部品を組みなおし、なんとか修理に成功する。しかし意図した番号へダイヤルする事まではできない。やっとの思いで偶然つながった相手は、いかにも無責任そうなイマドキの若者のケータイだった。

ここから先は、文字通りノンストップで息づまるサスペンスが展開する。修理した電話機ではリダイヤルできない以上、この通話が切れてしまうことは、すなわちヒロインの命運が尽きることを意味する。しかも、よりにもよってつながった相手はビーチでナンパにいそしむ能天気な男の子で、まったくこちらの状況を理解してくれない。イタズラ電話と思って切ろうとする彼に、まずは信じてもらわなくてはならない!

もうこのアイディアを聞いただけで、どきどきわくわくしてきたでしょう!その期待はまったく裏切られない。

ストーリー・脚本は実にうまくできている。話のテンポが非常によい。展開のダルさとか一切なし。イントロからいきなり飛ばしてくるし、セリフはすべて後の伏線なり生きているので、彼女なり彼氏が「先にみといてー。わたし/おれも後で一緒にみるからー」とか言ってきたら、断固としてDVDメニューに戻って頭から一緒にみるべきだ。
へんにひねった話ではなく、むしろ先は読みやすいぐらいだが、それらが絶妙のタイミングとツボでやってくるので、予定調和の快感。まさに「キター」という喜びが何度もやってくる。ハラハラドキドキもお約束通りだけど、プロの脚本と進行の技に踊らされるのは非常に気持いい。

キム・ベイシンガーもよかったけど、彼女からかかってきた電話のせいで、ケータイ片手に奮戦するニーチャン (クリス・エヴァンス) もなかなかよい。
ビーチでフラフラ、振られた元カノに話しかけてもスルーされ気味。そんなチャランポラン野郎が、最初イタズラ電話だと思ってたキム・ベイシンガーからのコールに、おいこれマジかよ、どーすんだよこれ、と、だんだん巻き込み巻き込まれ、行動するアクティブなヤツになっていくさまは、もちろんこの映画の芯であり、それを充分に演じている。

とはいっても殴り合いとかになったら弱っちいヤツなのではあるが、最後のほうのキメシーンのひとつで、宿敵を倒した西部劇のヒーローのごとく、彼がノキアのケータイをオフフックにするシーン。あそこには、腕っぷしばかりの世代じゃないけどボクらはケータイも飛び道具さ。みたいな微妙に情けないけどカッコいい感じもあり、ふと、この映画、邦題が「電話男」とかになってた危険性もひょっとしたら充分あったかもとかどうでもいいことを思った。

悪役のメインはジェイソン・ステイサム。これがまた、強そうで、わるそうなやつ。というのを十二分に満たしていて申し分ない。演技もよい。さらに初老の警官役のウイリアム・メイシーが実によい。ボケもはさみつつ、ストーリーを裏からだんだん収束させてゆく名演技。特に、彼がある家をはじめて訪問し、辞するときに、きらめくいくつかの表情。まさに名優の仕事で、堪能した。

ごちゃごちゃ書いたが、謎解きの楽しさに加えてはらはらどきどき、スリル満点。ユーモアもあり、最後のセリフもキマっている。テンポと展開には非のうちどころがない。エロとか変な残酷シーンなどもないので、家族でみるにも最高だ。傑作娯楽映画として鉄板でおすすめ。 

これが良かったなら、同じ脚本家のフォーン・ブースもぜひおすすめ。