音楽 / 三島由紀夫

オルガスムスを得られない悩みを、「私には音楽が聴こえないんです…」

主人公の精神分析医が、特異な症状を主張する女性患者に出会ってから、その治癒にいたるまでのさまを手記として綴った、小説中小説のような作品。婦人雑誌に連載されていたもののようだ。大部の作品でもない。十数年ぶりに読んだ。

当時のジャンル分けでいえば中間小説というやつだろうか。

三島由紀夫独特の「ギリシア彫刻の天駆ける衣の襞のような(三島作品についてよくある形容ですね)」レトリックはこの作品にはなく、執筆ターゲットにあわせたためかもしれないが、あっさりと、しかし計算された読みやすい文章。ネタバレになるからあまり書けないが、進行や伏線やサスペンス性もわるくない。題材の性質上、心理分析関係の単語群も頻出するので、この手のもろもろが好きなかたにもおすすめ。大人が数時間を味わい深く過ごせる良質のエンターテイメント作品。